Bar Library of Time『初夢異世界Bar巡り?!』
「お客さん、終点ですよ!」
肩を軽く叩かれ、ハッとして目が覚めた。
北千住で乗り換え、柏に向かっていたはずだが……終点って…取手?!
恥ずかしくて慌てて飛び降りたが、何やら見知った駅のような……え?柏?
……いや、違う、ホームの駅名版は……『Neo Kashiwa(ネオカシワ)』……は?
とにかく階段を駆け上がると、なんだ、見慣れた改札とコンコースじゃないか!
時刻は19時過ぎで、往来も多い。
脱兎のごとく東口から外へ出て振り向いた駅舎には……なんなんだよ、『Neo Kashiwa Station』って…。
建物の風景はほぼ変わらないが、所々で、ホログラムが行き交う人々を案内している。
ダブルデッキの旧そごう寄りの手すりにもたれ、小一時間ほど眺めていたが、小さな溜息をついて、いくつかあるホログラムの1つへ向かった。
なるほどね、こりゃ何かのご都合でパラレルワールドへ飛ばされたか、夢のどっちかだ。
異世界ものの漫画を読んでるおかげか、変に落ち着いている。
「今晩は、俺は……」
「Neo Kashiwaへようこそ♪本日は…あぁ、“Find The Bartender”にご参加ですね!では、ヒントを頼りにBarをお捜しください。ヒントの提供や来店スタンプは、すべて左腕のギグバンドで行いますので、無くしたり外したりしないでくださいね!行ってらっしゃいませ~♪」
「は……」
見れば、いつの間にか左腕には、蒼く光るギグバンドが付いている。
もう、参加するしかなかろう(苦笑)
一旦、駅のコンコースに戻りながらギグバンドに触れると、解説が始まった。
「“Find The Bartender”は、貴方に1人のバーテンダーを捜していただきます。誰を捜すかは、ご自由に設定してください。20人のバーテンダーが、普段とは異なるBarで、仮面を付けて一夜限りのバーテンダーを努めています。ドリンク注文は1店舗2杯まで。会話は結構ですが、音声を変えていますので悪しからず。捜し求めるバーテンダーを、何店目で見つけられるかが、勝敗の決め手となります。設定したバーテンダーに関するヒントは、ギグバンドをご覧ください。」
って❗面白れぇ~✨
まずは、捜すバーテンダーを設定し、ヒントを見て、おおよその“アタリ”を付けて店に行き、ドリンクの味と所作で見極めろってか☆
いいねぇ♪いいねぇ♪このさい会話はあてになんねーしな(笑)
答えを外しても、何店でもチャレンジ可?!お~♪最高☆
Neo Kashiwaなんて言うから、知らないBarだろうと思いきや、Alpin・Calma・sunnyspot・Tezuka・Trias・Plat・みけねこや……ン?Library of Time?
わぁ、知ってる店があるじゃないか!(でも、同一人物かはわからんな、笑)
ままよ❗よ~し、じゃあ、彼にしよう!
そして、ギグバンドに触れた瞬間、世界が暗転した。
☆ ☆
「ちょっと、こんなところで寝ちゃ困りますよ。」
肩を叩かれ目を開けると、さっきまで寄りかかっていたダブルデッキの手すりの下に、座り込んでいた。
「酔ってるんですか?大丈夫ですか?」
俺は、いつからお巡りさんにたしなめられるほど、だらしないヤツになったんだ?!
慌てて立ち上がり、尻をパンパンはたいた、酔ってはいないようだ。
「すみません、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」
「気を付けて帰ってね。」
キョロキョロあたりを見渡したが、ホログラムがない。
わけがわからないが、とにかく寒い、どこかで一杯ひっかけよう。
西口へ出てエスカレーターを下りると、東横INNの奥にチラリと灯が見えた。
誘われるように近づくと、深い赤褐色の木製ドアには「Bar Library of Time」とある。
「いらっしゃいませ!どうぞ、お好きなお席へ。」
「寒いね。※ホット・ウイスキー・トディをください。」
「お客様、申し訳ございません!本日は、Neo Kashiwa市政200周年イベントの一環で、特別メニューになっております。こちらのメニュー表から、お選びくださいませ。」
「はぁ……」
えぇぇ?なんだなんだ、このメニューは?!
■いつも背中を押してくれる三丁目の鈴木さん(ウイスキーベースカクテル)
■スクールゾーンを優しく見守る東町の安藤さん(ウォッカベースカクテル)
■○○商店街の頼れるリーダー一丁目の木村さん(ジンベースカクテル)
■株式会社△△若き三代目の拓海さん(ラムベースカクテル)
■みんなの応援団ご当地アイドル・Aちゃん(モクテル)、etc……
「……なんスか、これ?」
「(笑)お客様、Neo Kashiwaの方じゃないですね?大昔、コロナがあったでしょ?あれから私達は、ごひいきにしてくださる常連の皆さんを、カクテルで表現するようになってね。許可を得られた方のみ、裏メニューにしてきたんです。それぞれの店舗にそれがあって、何年も経ってメニューの数も増えて、市政200周年記念をきっかけに、一挙に公開することになったんです。今日は初日で、裏メニューのみでやってます。」
「はぁ、じゃあ、三丁目の鈴木さんで(笑)!」
「承知しました!」
出てきたのは、偶然、ホット・ウイスキー・トディに近いものだった。
レモンではなくオレンジにクローブが刺してあり、多めのハチミツがとけている。
コクとフルーティー、スパイスとハチミツがナイスバランス、体があったまる~♪
「いかがです?三丁目の鈴木さん…」
「ええ、思いやりのある方で、その時に必要な言葉をかけてくれるような、絶妙な人なんですね?」
不思議だ、まるで三丁目の鈴木さんに会ったような気になる。
少なくとも、カクテルを通して、俺はこの人を少し知ったのだ。
「面白い企画ですね。カクテルを通して、赤の他人の俺が、この街の人と触れ合っている。来街者誘致にも一役買うんじゃないですか?それに、このメニューの羅列は、この街のエネルギーの根源が何かを、如実に語ってる。皆さん、自分の街を愛してるんですねぇ。三丁目の鈴木さんに会ってみたくなりました(笑)」
「実は、今日いらしてて…」
「えーっ❗(それを早く言えや!)」
うぎゃ~俺はなんて恥ずかしいことを!
赤面しながら振り返ると、大泉洋似の男が照れくさそうに近づいてくるじゃないか!
慌てて席を立ち、コケた瞬間、世界が暗転した。
☆ ☆
「起きてください!もうすぐ終電ですよ~。」
肩を軽く叩かれて目が覚めた。
俺としたことが、カウンターで寝てしまったらしい。
「Bar Library of Time」の店内だ。
「あれ?三丁目の鈴木さんは??」
「何のことです?ご来店されてから、誰にも会われてないですよ。」
「?……すみません、すぐ帰ります。」
「まだ少し時間があります。よろしければ、本日の思い出を、箇条書き程度で結構ですので、こちらに書いていっていただけませんか?」
差し出されたのは、鍵付きの日記帳のようなノートだった。
「いえね、Barというのは、常々、街の記憶装置のようだと感じているんです。だから、常連さんにはノートを差し上げて、来店ごとに一筆したためていただいてるんですよ。アプリがいい方は、スマホに。それをね、親から子へ、受け継いでもらえたら素敵だなぁと。何だかお客様は、またいらしてくださる気がするんですよ。」
「わかりました。私はノートでお願いします。」
異世界のBar……でも、ここは本当に異世界なのか?
落としたペンを拾おうとした瞬間、世界が暗転した。
☆ ☆
チュンチュン……小鳥の声で目が覚めた。
枕もとの時計は、1月6日、AM7:00、今日から仕事だ!
なんだか夢を見たような気もするが……思い出せない。
だが不思議と胸が温かい、この感覚は…そう、Barにいるときの感覚だ……?
あれ?右手に何か…ショップカード?……「Bar Library of Time」……?
……知らん店だ……連絡先も書いてねぇ、いったい…?
まーいーか!今年もワクワクすることが待ってる気がする✨
俺は布団を勢いよく跳ね除け、飛び起きた。
※ウイスキー・砂糖・湯・レモンスライス・クローブやシナモンスティックでつくるホットカクテル。
次回は5月掲載予定!