Bar Trias『ふらりと寄るBar』
仕事は楽しいに越したことはない。
だが、実際、そうはいかないこともある。
視点を変えたり、長期的な展望を描いて、“楽しさに変換”できる仕事も多い中で、どうあがいても、“つまらない・苦しい・悲しい”仕事だってあるのだ。
例えば、誰かが生き甲斐やライフワークとしてきたような業務を、採算性やコンプライアンスの面から見直しが必要になり、それを告げねばならない仕事がそうだ。
そして、冷静に淡々と遂行せねばならない。
悲しいどころか、こちらの魂も削られる。
今の俺がそれであり、気分はどん底。
ぼんやり、ふわふわと会社を出、気づいたらBar Triasの前だった。
☆ ☆
「こんにちは」
「いらっしゃい」
開店したばかりの時間にも関わらず、決して広くない、隠れ家のような店内には、カウンターの両サイドに、既に客がいた。
少しホッとする。
今、1人でいるのは大変良くないからだ。
他人がいることで、“ここは皆が静かに楽しむ空間なのだ”と、無意識に自覚できる。
カウンターの椅子に座る。
ふかっと腰が収まると、自分の中の何かが、少し収まるような気がする。
正面の酒瓶の並ぶ棚を見る。
その中で、「ザ・ボタニスト」「シップスミス」「ル・ジン」が、並んで置いてある一角が目にとまり、フっと口元がほころんだ。
同時に、自分の中の何かが、少しほころぶような気がする。

Barの、酒瓶が並ぶ棚を眺めるのが好きだ♪どんなクラフトジンがあるかな~?とか、これ飲んでみたいな~とか、楽しくなる。
「いいビジュアルで、見ているのが楽しいよ。」
「どれも、お好きでしたよね。」
「うん」
「じゃあ、どれか頼まなくては(笑)」
「え~っ、なんだそれ(笑)」
振り返って、入り口の方を見る。
小さな隠れ家が、外とドアで隔てられ、遮断されていると思うと、自分の中の痛みが、少し遮断されたような気がしてくる。

得てして、外から見たときの、Barのドアは無表情だ。だが、中に入ってしまえば、隠れ家と外界を隔てる、安心感に満ちた壁なのだ。
向き直って、奥の絵画を眺めてみる。
恐らく著名なものだろうが、今それはいい。
ここへ来れば必ず眺めるこの絵。
なにやら楽し気な雰囲気であるのはわかる。
眺めていたら、今日も、自分の中の何かがほっこりした。

一番奥の席は、この絵を眺める特等席だ✨
……あれ?俺、どん底の気分だったのでは?
明るいとは言えないまでも、少しリカバリーされている自分に驚く。
「自分の好きな場所で、ルーチンの動作をする」ことが、こんなに治癒を早めるとは……。
まっすぐ帰宅して布団を被って寝てしまわず、ここに寄って良かった。
ふっと、また口元がほころんだ。
☆ ☆
「じゃあ、シップスミスでパラダイス!」
「シップスミスは通常バージョンで、ジュニパーベリーの風味はそこまで強くないですがいいですか?」
「はい、ここのパラダイスで初めて、“混ざる”って凄いって思ったんだよ。」
「混ざって当たり前なんですよ、そうでなきゃ困る(笑)」

一緒に使われているアプリコットリキュール、「エギュベル クレーム・ド・アプリコット」も好き✨
パラダイスの次は、シャインマスカットとフランス産のブドウ100%で造られたウォッカ「シロック」で、シャインマスカットのマティーニ。
瑞々しさが際立つ一杯、そして、ブドウの時期も終わりなので、「さよなら、また来年」の一杯でもある。

シャインマスカットのマティーニ。シロックの原料がブドウだから、ブドウにブドウなわけだ。
「ウイスキーは、最近は何を飲んでらっしゃるのですか?」
「ボトラーズを飲んだよ、アイラ島のシングルモルトだけど、どこのかはわからない」
「そうですか、では、これなどいかがですか?」
星空の下、赤いマントを羽織った人と、ドレス姿の女性のイラスト。
なんとなくロマンチックで軽やかな感じがするが、熟成は17年と長い。
シークレット・アイラだが、アードベッグ説が有力なのだそうだ。
今日は生チョコをお供に楽しもう。

ウイスキーをちびちび飲みながら、考えをまとめることも多い。これは「ウイスキーギャラリー アン アイラ17年2008ホグスヘッド」
☆ ☆
……何杯か飲む間に、帰る客、来る客……、いつもの風景が繰り返される間に、苦しかった何かは、すっかり凪いでいた。
そしてむしろ、頭の中は、苦しい仕事の状況整理にシフトしていた。
もし、俺が今、Bar記事の執筆を取り上げられたら??
公園で植物教室をやっちゃいけないと言われたら??
そうだ、その感覚が、唯一、生き甲斐やライフワークを取り上げられた彼らと共有できる感覚だ……。
耐え難い。
だが、その耐え難い気持ちにケリをつけなければならないとしたら、どんな言霊が必要なんだ??
……少し、見えてきたぞ……。
「今日は、最後に、モクテルをいただくよ。シャインマスカットでよろしく!」
Bar Triasで、酒が飲める客がモクテルを頼むケースは、そうはないだろう(笑)。
「今日はウイスキーをあまり飲まれないんですね?」
オーナーの鈴木氏が不思議そうな顔をしている。
「そんな日もあるさ(笑)」
モクテルは、シャインマスカットの瑞々しさはそのまま、特有の青っぽい感じが消えていた。
そして、フローズンを一気に飲んだせいで、こめかみをキーンとさせながら、ふんわりした別の甘さに気づいた。
「……何を入れたんだい?」
「イチゴジャムを少し」
「旨いわ(笑)」

Barのモクテルは、カフェや喫茶店で飲むジュースとは、まったく違う。カクテルをつくる技術そのままに、アルコールだけが無いのだ。どこの店でも頼めるかはわからないが、機会があれば、味わってみて欲しい✨初めての味に出会えること、請け合い♪
☆ ☆
マティーニもモクテルも、同じくシャインマスカットを使った。
ただし、一緒に混ぜた材料も、混ぜ方のテクニックも違う。
それが、同じくシャインマスカットという味の柱がありながら、まったく異なる味を作り出した。
言霊も、多分、同じだ。
ただ伝えるのなら、「中止が決まった」の一言でいい。
そうじゃない、「中止」という柱に、もっと加えるべき言葉があるはずだ。
……早く帰ろう!明日、早起きして書いてみよう!!
「ごちそうさま!帰るよ!俺、ここ来るまで、どん底の気分だったんだぜ(笑)!!ふらりと寄るBarもいいもんだな♪」
「まったく!(笑)」
茶目っ気顔で、肩をすくめる鈴木氏に手を振り、俺は足早に柏駅に向かった。
Bar Trias
千葉県柏市旭町1-4-11-201
営業時間:18:00~24:00
定休日 :火曜





















