くつろぎのBar

bar cacoi『春、舞うBar』

キャンドルゆらめく、寛ぎのカウンター

 

 

これは、サクラが終わった頃のお話し。

 

   ☆     ☆

 

茫然自失。

そんな境地は、人生にそう何回も無い。

それが、今だ。

桃の花びらが、グラスの中で舞っている✨

ふわふわ、ひらひら……

俺は呆気にとられて、ただじっと見つめるだけ。

ただ、じっと、いつまでも………。

 

   ☆     ☆

 

あ~あ、とうとう花見に行けずに、ソメイヨシノが終わっちゃったよ。

ブツブツ言いながら、歌舞伎座の後ろを築地方面に歩く。

「試験に合格して、“サクラ咲く”だから、よしとするか~(笑)」

 

東銀座、bar cacoiは、キャンドルの灯りゆらめく、8席の隠れ家的カウンターバー。

来店は二度目。

初めて来たときに、マリアージュ フレール(※1)の茶葉(紅茶)をカクテルに使っているのを見て、興味がわいた。

もっとバリエーションを知りたいと思ったのだ。

 

「え~と、紅茶を使ったカクテルを………」

腰掛けて、声をかけようとしたら、カウンター中央に《桃の花びらのジャム》があるのに気付いた。

花びらを閉じ込めた、薄桃色のジュレが綺麗だ。

 

…………どうやって使う?

溶かす?トッピング?

店内の音源はレコード。なんだか無性に落ち着く。

 

   ☆     ☆

 

ひところ俺は、“花びら”に執着した時期があった。

乾燥・生花・ジャム等の加工品、“花びら”は様々な形で、販売されている。

花びらってゆーのは、散るもんだ。

だから、グラスの中で散って(舞って)欲しい。

Barでそんな無理難題をお願いしたことが、かつて幾度となくあった。

 

今回は何の意図も無い。

ただ、花びらがあったからという、条件反射に近い。

 

「そこの、桃の花びらのジャムを使ったカクテルをください。」

「温かくてもよろしいですか?」

「はい?……はい!」

 

すぐに鉄瓶の湯がシュンシュンいい出し、紅茶が入る。

そして出てきたロンググラスの中で………

 

   ☆     ☆

 

花びらが、舞っている✨

紅茶のせいで、対流が起きたのだろうか?!

 

それは、見たいと思いながら、今まで見ることの無かった光景。

それが、まるで当たり前のように、あっさりと、簡単に……

 

予想外のことに、茫然とグラスをみつめ続けてしまった。

そして、ハッと我に返り飲んでみる。

 

ジャムが程よく甘く主張する。

ミント系のマリアージュ フレールの紅茶が爽やかさを、ブッシュミルズ12年(※2)がコクを感じさせる。

そして何より、温かなカクテルは、まだ朝夕が冷えるこの時期特有の、季節感を感じさせた。

 

「美味しいです!」

「よかった!」

 

長時間、グラスをガン見してたせいで、多分、余計な心配をかけたに違いない。

このお客さん、どうしちゃったんだろう?と思っただろう。

 

説明すべきなのかもしれないが、それをしゃべりだしたら、止まらない気がするので、やめておく。

 

それよりも、なんてこった!見とれて、撮るのを忘れた!!

 

だから、画像は最後に頼んだ、コーヒーリキュールのカクテル。

2種類のリキュールが使われているそうだが、これも、大変美味しかった✨

コーヒーリキュールのカクテル。次回、来店の際に、きっとまた注文する。

 

☆     ☆

 

小さな夢、だが長年の夢が1つ叶い、ポカポカ幸せな気持ちで店を出る。

 

そして気付いた。

なんだ、俺、花見できたじゃないか!

散りゆく桃の花見が✨

 

クスクスしながら東銀座を歩くほろ酔いの男。

幸いにも、そんな変なヤツを指さす通行人には出くわさなかった。

 

※1:1854年、パリ創業のフランス流紅茶専門店。東京都中央区銀座「すずらん通り」に銀座本店がある。

※2:アイリッシュウイスキー最古の蒸留所の1つ、北アイルランドのブッシュミルズ蒸留所でつくられているウイスキー。オーナーバーテンダーの大場氏は、ブッシュミルズのアンバサダー。

 

 

bar cacoi(バーカコイ)

 東京都中央区銀座3-14-8銀座NKビルB1

 営業時間:18時〜02時

 定休日 :火曜日

 

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