Bar Landscape.『景観(風景)を紡ぐBar2~新たな風景の兆し~』
プロローグ
「貴方は、一人飲みの楽しさを知ってしまったんですよ(笑)」
「……そんなもんかね(苦笑)………」
小さな隠れ家のようなBarで、微笑みながら、バーテンダーが呟いた。
カウンターには、色とりどりのドライフルーツが少量ずつ盛られた皿と、ラガブーリン16年が注がれたグラス。
ドライフルーツをつまんでは飲み、飲んではつまむ。
何かの永久機関のように、いつまででも繰り返していられる気がした。
ドライフルーツとウイスキーが、互いの旨味を支え合う、最初の「俺の美味い」だ。
「美味い」という気持ちは、心に余裕を生む。
ゆっくりと、今日一日を振り返ったり、これからやりたいことを考えたり……「美味い」は心を整えてくれるのだ。
「…………これでいーじゃねーか………」
そこに、他人の入り込む余地はない。
他人とBarに行ったことが無いわけじゃない。
だが、ほとんどの場合、最初から、諦めに似た感情があった気がする。
それが、いいか悪いかは別にして。
☆ ☆
タッジーマッジーは3種類作っていただいている。最初のシャルトリューズは、9センティネア。飲んだ瞬間のブーケ感にびっくりだった✨
2023年12月
Bar Landscape.
「タッジーマッジー………だ……✨」
久々の単語が、思わず口を突いて出た。
見つめるグラスには、白濁した液体。
タッジーマッジー、ハーブを扱う方なら、知っているかもしれない。
ハーブで作るブーケで、中世ヨーロッパでは、魔除けにもされてきた。
今では、オシャレなクラフトとして、流通している。
「いかがですか?」
「え?ええ……まるでハーブのブーケみたいだな、と。美味しいですよ。」
「よかったです。」
俺はラベンダージンの、好きな飲み方を探していた。
だが、頭に北海道のラベンダーソフトクリームが浮かび、ミルク味カクテルを頼んでみたりの迷走(苦笑)。
「※(1)シャルトリューズで作ってみましょうか?」と言われても、バカな俺は最初にスルーしてしまっていた。
そこであらためて、試したいとお願いし、提供されたのが、タッジーマッジーと呟いた一杯だったのだ。
酸味の有る無しを問われた後は、何度も味見を繰り返し、相当に慎重なパフォーマンスで作られた一杯。
美味しい。
言葉のごとく、ハーブのブーケだ✨
これだよ。
ラベンダーのインパクトは、ハーブのブーケなら当然だし自然だ。
そして、時は年越し。
人がみな、煩悩を払い清め、御神酒やお屠蘇と共に、夢や希望を願うタイミング。
勝手に名付けはしたものの、ハーブとラベンダーのカクテル、タッジーマッジーは、本家にならえば、時期的にも清めのカクテルだろう。
煩悩を払い、新年の願掛けを込めて、いただこう。
2番目のシャルトリューズはジョーヌ。ハチミツ入りのまろやか仕立ての優しいブーケ感。クローブを刺したレモンピールは、※(2)フルーツポマンダーを想像させる✨
3番目のシャルトリューズはヴェール(グラスの背後)。ハーブの香り強調のブーケ感✨
ハーブのブーケを想像しつつ、神妙な心持ちで飲んでいると、今までにない感情が湧き上がってきた。
“誰かに飲ませたい”
“俺と同じような植物好きに、タッジーマッジーだろ?って飲ませたら、わかるーっ!て言うヤツがきっといる!”
それは、俺が積極的に誰かとBarに行きたいと思った、初めての感情。
そしてその想像は、凄く幸せな気がした。
そうか………
俺は味覚を共有したいと思ったんだ………。
…………一人飲みの幸せとは別に、二人飲みの幸せもあるかも………だな。
Barに行く動機や過ごし方は、人それぞれ、千差万別。
その日、俺は俺なりの理由で、誰かとBarに行きたいと思い、きっと一人とは違った楽しさや意義があるのだと、気付いたのだった。
そしてそれは、俺の新たな風景の兆しかもしれなかった。
途中でピザトーストをいただく。ピザソースもサラミも美味しく、パン生地のきめ細かさが特に好きだ。
ラフロイグ飲み比べ。同じ年のものだが、左はJUNで右はDEC。左はま~るい感じ✨(相変わらず語彙が乏しくてすみません、笑)
※(1)シャルトリューズ:フランスを代表するリキュール。薬草系リキュールの銘酒。
※(2)フルーツポマンダー:フルーツにクローブを刺した香り玉。疫病の予防として、かつて枢機卿や医師が身に着けたと言われている。今はオシャレなクラフトとして一般的に流通。
Bar Landscape.
東京都中央区銀座6-4-9 SANWA GINZA Bldg.B1F
営業時間:16:00~24:00
定休日 :日曜・祝日