かしわさんぽ

株式会社 五香刃物製作所

今回はかしわさんぽ特別編!

千葉県柏市藤ヶ谷で刃物の製造卸業を営む、株式会社五香刃物製作所さんにお邪魔させていただきました。

 

平成18年度に、自社製牛刀(洋包丁)千葉県指定伝統工芸品に認定

平成29年には、株式会社五香刃物製作所 代表取締役 八間川 憲彦(やまかわ のりひこ)さんが会長を務める、

千葉県打刃物連絡会※の申出によって、千葉県内の鍛冶職人が伝統的な技法を用いて手造りで製造する

包丁や鎌、洋ばさみなどの千葉工匠具(ちばこうしょうぐ)」が経済産業大臣指定伝統的工芸品になりました

 

 

牛刀に刻印されているのは自社ブランド銘 光月作(こうげつさく)。

 

 

機械による大量生産化が進む刃物業界の中で、日本生まれの洋包丁 関東牛刀の伝統的な技法 総火造り(すべての工程を職人が手作業で行う)を受け継ぎ、その技術を後世に残そうと日々活動されている憲彦さんと、息子、義人(よしと)さんに、刃物鍛冶職人としての信念や、後継者の育成について、お話を伺いました。

 

※千葉県打刃物連絡会…平成28年4月23日結成。千葉の職人の技法継承、伝統ある鍛冶産業の振興を目的とした鍛冶屋による団体。

(千葉県打刃物連絡会公式HP)

 

 

魂を込めた“ものづくり”

五香刃物製作所さんは、柏市南逆井にて平成元年の設立以来、業務用から家庭用まで、

鍛冶屋造りの包丁、はさみなどの刃物全般を取り扱い、全国各地の刃物産地問屋に卸販売を手がけてきました。

 

平成7年には、業務拡大のため現住所である柏市藤ヶ谷に事務所を移転し、

柏市在住の関東牛刀鍛冶職人 関守永(せきもりえい)師を招聘し、鍛冶工房を構えました

現在では、義人さんが関東牛刀の技術を継承し、鍛冶師として活躍されています

 

 

 

 

―どのくらいの製作工程を経て、1丁の牛刀が完成するのですか。

義人さん「けがき(型紙を材料に当てて、マジックなどで型をとる)や裁ち回し(けがいた線に合わせ「たがね」等で大まかに型切り)から柄付け、刃研ぎまで…大体30工程とは言っていますが細かく言うともっとあります。」

 

 

柄付け作業の様子。

 

 

―すべて手作業との事ですが、1日に作ることができる数はどのくらいですか。

義人さん「1日で1丁1丁作るわけではなく、工程ごとに作業するので一概には言えませんが、家庭用サイズで大体23丁くらいのペースです。」

 

 

―ひと通りの作業ができるようになるのにはどれくらいの期間がかかりますか。

義人さん3年くらいを見越してはいますが、あくまでも形を作るだけ。お客さんに出すにはそこから最低でも5年はかかるでしょう。10年経てば、今まで作ってきたもののどこが悪いのか、良くするにはどうしたらいいかが見えてきて、効率よく作業ができるようにもなってくる。そこから更に10年、20年経てばまた違った見方ができるようになるんじゃないかなって思います。」

憲彦さん「我々の仕事は、いくら周りから“名人”と呼ばれても、自分の鍛錬が終わったかというとそうではありません。この仕事に携わっている限り、一生修業の身なのですよ。」

 

 

―刃物鍛冶職人に求められる資質はありますか。

憲彦さん嘘をつかないことです。職人は、親や師匠から教わったことを自分も同じようにやっていかないといけません。30工程以上ある作業を、素人にはわからないだろうと20工程に減らせば、生産数は倍以上になるけれど、残された技術を決して変えてはいけない。楽な道を選べないのです。刃物は道具でもありますが、使い方を間違えると人を傷つけることもできてしまいます。だから作り手は自分の魂をすべて注ぎ込むのです。そうしないと悪い道具に使われてしまうから。嘘のない心で、嘘のない本物を作るそれが職人です。私は51年(刃物)業界にいて、嘘つきに会ったことがありません。周りにいた刃物鍛冶職人達の人間性に触れて、今の私があります。」

 

 

「見た目重視で綺麗なものを作ろうなんて気はありません。魂を込めて、切れる刃物を作るのです。」

と、力強く話してくださった八間川 憲彦社長。

 

 

一探究者として、人を育てる

 

―弟子入り志願者は来ますか。

義人さん志願者は年間23います。下は1518歳、上は40代まで。中にはゲームの世界に憧れて鍛冶屋になりたいという人や、日本刀を作りたいという人もいるので…大抵はお断りしています。でも、今年の4月から19歳の子が1人正社員として入社しました。アルバイトとして夏休みの間働いてもらったら、休みが終わっても学校終わりに週3回一生懸命働いてくれて。根性のある子だなと。」

憲彦さん「今朝だって2:50に事務所に来たのですよ。そうでないと、火を使う焼き入れ(包丁をコークス炉で約850℃に加熱した後油に浸して冷却)の作業ができないのです。」

義人さん「(温度計などは使わずに)高温で赤くなっている刃の色を見るので、明るいと感覚が狂ってしまうのです。」

 

 

―相当な経験が必要なお仕事ですね…常に修業の身という意味がよくわかります。今は義人さんがご指導されているのですね。

義人さん「基本的に彼に教えているのは、常に一探究者でいないとだめだということです。人がやっていないことをやっているので、ある年数が経つと周りの人から“先生”なんて呼ばれることもあります。でもそこで天狗になったら終わり。自分の魂込めて作った商品に自信を持って(お客さんに)出すのは大切なことだけど、必ずそこには疑問符をつけないとだめそうでないと技術も人間としても、そこで成長が止まってしまうと思っています。人間的にも魅力がないと良い刃物は作れませんからね。」

 

 

専務取締役/鍛冶師 八間川 義人さん(写真左)、平成30年4月入社の芦谷 剛史さん(写真右)

 

 

義人さん師弟同行という言葉があるように、“師も弟子も同じ修業中の身”という気持ちで、いつも工房に入っています。」

憲彦さん「いろんな人や機会とのめぐり逢いですね。そうして自分を鍛えていく。師匠が弟子から教わることだってあるのです。」

 

 

ひとつひとつに職人の心が

工房の隣には、自社製刃物の他、関東の手造り刃物等職人さんの造った商品を中心に、憲彦社長が厳選した刃物などが並ぶ、展示場があります。職人さんが心を込めて造り上げた刃物…その存在感に圧倒されました。

五香刃物製作所さんでは、刃物の研ぎ直し不要刃物の回収も行っているので、一般の方でも気軽に刃物に関する相談ができます。

興味のある方はぜひ一度、足を運んでみてください。

 

 

 

 

 

以下、会社の基本情報です。

 

 

 

株式会社五香刃物製作所

〒277-0931 千葉県柏市藤ヶ谷369-10

☎04-7193-0271

【営業時間】

月曜日~金曜日:9:00~18:00

土曜日:9:00~12:00

【休業日】

土曜日午後、日曜日、祝祭日

http://gokouhamono.com/

 

 

 

掲載情報は2018年8月1日の取材時のものです。

 

 

 

取材・執筆:小島 眸  撮影:児玉 啓

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