くつろぎのBar

Bar Plat『小説と映画と探偵とBar』

以前書いたかもしれないが、“本屋ならいつまでも居られる”そーゆー人は多い。

俺もそうだ。

とある町のくまざわ書店、いつもなら、新発売のアウトドア雑誌をめくったり、植物図鑑や事典を見比べて、気づけば相当な時間経過に慌てるのが常だ。

だが今日は……

「あのお客さん、さっきから店内を何周してるのかしら?同じところで数分立ち止まっては、またぐるっとまわってくるのよ……。」

レジの女性の声が聞こえてきそうだ。

SFが好きな俺は、本屋に行けば、必ず探すハヤカワ文庫の棚。

そこから出版されていることを知らなかったし、幸か不幸か、これまで出会うことも無かった。

あ~、まさかのハヤカワだったか……何周まわったかわからなくなった頃、俺は諦めて小さなため息をついた。

 

☆    ☆

 

早い時間をいいことに?!これから始まる“たわごと”の数々…すみません、吉田さん

 

 

「でさ、これを読み始めたわけよ!読んだことある?」

トン!と単行本をカウンターに立て、カバーを外して、マスターに見せた。

『探偵はバーにいる』

街の灯りが差し込む夜道、歩く人の足とマンホールの蓋だけが描かれたイラスト、いかにも繁華街の裏通りっぽい風情が漂う。

「12月に新作映画をやるらしい。」

まだ早い時間で、他に客はいない。

 

「ははぁ、タイトルは知ってますよ、でも読んではいないです。」

Bar Platのマスター吉田氏が、“なるほど”というようにうなずいた。

 

「ずっと前に話したことあるよね?俺が都内の探偵事務所の面接受けて、落ちた話し。正直、受かったと思ってたんだよ!会長さんと話しがあってさ、“これは受かった!俺も明日から探偵だ!”って、意気揚々と帰って来たのに、不合格通知が届いたときにゃ、茫然としちゃったよ!本当に落ちたのかって、電話しちゃったし。」

 

「そんなこともありましたね(笑)」

 

「カフェのマスターには、“受からなくて良かった。依頼の中には、事件性があるものだってあるかもしれないでしょう?あなた、東京湾に浮くかもしれなかったんですよ。”なんて言われてさ。そうかぁ、そうかもなぁって、自分を納得させたけど……。」

ホカホカのまい泉のカツサンドにかぶりつきながら、ジントニックをごくごく飲み、にんじんのマリネをつまんで、空腹がやっと落ち着いた

 

「映画があるのは知ってたよ、観ちゃいないが(笑)なんか、心がざわざわするんだよ。だから、あえて詳しく知ろうとしなかった。それがさ、本屋で原作見つけちゃって……すごく迷った挙句に買ってしまった…だってさ、こいつ、俺がなれなかった探偵なんだぜ!」

 

「えーと、本の中のお話ですよね…💧」

 

「そうだよ!わかってるよ!でもこいつ、自分の名前を明かさずに、“俺”って名乗ってんだぜ!何だよ!俺と同じかよ!知らなかったよ!」

 

「本の中の人です…💧」

 

俺がジントニック1杯で酔うわけがないのを知っているマスターは、まるで本の中の主人公が実在するかのように話す俺の様子を、不可解に感じただろう。

 

「一番ざわざわするのはさ、“俺は探偵社に『就職』しようとした”、こいつは“『自営業』で探偵”だってことさ。何で俺がこんな情けない気持ちになってんの?おまけにさ、ラスティ・ネイル→マティーニ→ギムレットなんて順番で何杯も飲むし、昼間っからジョニーウォーカーをがぶがぶ飲むんだよ!」

 

「……くらべなくていいんですよ(苦笑)」

 

酔っているなら酒を取り上げれば済むが、酔ってない。

吉田氏は気づいたろう、ざわざわの正体が羨望であることに。

 

梅雨を吹き飛ばす?!一足先に夏っぽい、甘夏&ラムのカクテル

 

 

心はざわざわだが、甘夏とラムのカクテルのおかげで、口の中は爽やかになった

「俺は知りたい。こいつがなぜ、探偵になったのか、俺との差は何なのか。まだ読みだしたばかりでわからないし、原作1作目は映画にもなってない。読んでいけば、そのうち、どこかで明かされるんだろうか?小説を読んで、公開済み映画も観て、そのうえで新作映画を観てやるんだ!」

まくし立てて、甘夏カクテルを一気に飲み干し、話しきったら落ち着いた。

なんてざまだ、まだ、他の客がいない時間帯で良かった…。

 

「舞台は北海道のススキノ、行ったことないけど、北海道つながりで、久々に余市を飲もうかな。」

 

みんな大好き♪余市!蒸留所にも行ってみたいなぁ

 

 

余市のコクを、生ハムと一緒にちびちび楽しんでいると、何やらスマホをみていた吉田氏が、顔を上げて言った。

「ああ、BAR一慶ですね、行ったことありますよ。おいしかったです。」

BAR一慶は、いわゆる聖地巡礼の場所になっている店だ。

 

「へぇ!そう!俺も行ってみよう!でも、新作映画の公開が終わって、かなり時間が経ってからね。ところでさ、Barって探偵なんて来るの?」

 

「……確かに、Barは情報が集まる場所です。人探しのような方に会うことはありますよ。」

 

「そうかぁ……俺は、今でも探偵になりたいんだろうか?自分がわからん。こいつみたいに、自営業で始めるなんて、思いつきもしなかった……その時点で、もうダメか……」

 

「探偵になって、何やるつもりです?」

 

「え~?犬猫探しとか?浮気調査とか??」

 

吉田氏が苦笑した。

ようやく酔ってきたらしい、4杯目を飲んだら帰ろう。

 

「はい、ラスティ・ネイルです。ベースをジョニーウォーカーにしときました。」

 

甘口なので、一見すると飲みやすいラスティ・ネイル、でも度数は高いので注意

 

 

「ありがとう!うん、旨いジョニーウォーカーが効いてる♪」

 

☆     ☆

 

おバカなたわごとを聞くはめになった吉田氏は気の毒だが、ざわざわを白状できたおかげで、行動方針が決まった。

出版されているススキノ探偵シリーズを極力読む→公開済みの映画を観る→新作映画を観る→自分の気持ちを考える、だ。

正直、俺がこれから探偵になれるなんて、まったく思わない。

だが、小説の主人公と俺、何が違って今なのかは、明らかにせずにはいられない。

 

一度気になりだすと、結論が出るまで、ずっと気になり続けるのが俺。

おかげで、気になることは増え続け、果たして生きてる間に、すべて解消できるかどうかわからない、どう考えても時間が足りない(笑)

そんなこんなで『探偵に憧れるおバカがBarにいる』のだ。

 

Bar Plat

千葉県柏市柏2-8-5やまもとビル2階

月〜土 17:00-24:00
日・祝 15:00-22:00 

定休日 :水曜

https://www.instagram.com/barplat_kashiwa/

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