BAR 和伽『皿がデカいBar、もしくは幸せなBar』
「ふーん…」
SNSは仕事がもっぱらで、プライベートでは閲覧ばかりの俺だが、最近、“材料に日本の在来樹木を使う酒”の“X”を、けっこう見かけるようになった。
使用されるのは針葉樹をはじめとする、香り豊かな樹木が中心だ。
環境に配慮する消費行動が次第に一般化してきた今、「エコ」に加え、「エシカル」という言葉も聞く。
商品や製品に冠される場合は、“何らかの理由があって製造・提供される”という意味のようだ。
上記の場合は、例えば間伐材の使用であったり、林業の新たな方向性であったり……ということになるのだろうか。
“でもさ、美味くなけりゃ、意味ないのさ!”
いつもBarには申し訳ないと思う、俺は好奇心を止められない。
一度気になってしまうと、解消しない限り、ずっとソワソワしてしまう(笑)
本当は、“ボタニカルアートの皿の旅”を続行する予定だったが、一旦、中断。
Xに登場する“樹木押しの酒”から、とある1本を選び、俺はまた、BAR 和伽へ向かった。
☆ ☆
持ち込んだのは、商品名「フォレストジン」という、ジュニパーベリーの代わりに、日本のハイビャクシンやネズミサシを用いたスピリッツだ。
安藤オーナーが封を切った。
「どうぞ、試飲を」
「!……森、だね!」
正直、フィトンチッド系のインパクトがドカンと来るかと思っていたが、そうではない。
最も感じる香りや風味、これが多分、和風ジュニパーベリーになっているハイビャクシンやネズミサシだ。
でも、それだけではない奥行があった。
日本の森を構成する様々な樹木が使用されているんだろう。
これは、単純な飲み方の方が本来の風味を損なわないのは確かだ…そう思っていたところに、スッと、細長い特徴的なグラスが差し出された。
「カクテル“バンブー”、ヒノキ風味。ジャパニーズビターズの“檜”を使っています。」
カクテル“バンブー”、ヒノキ風味。演出が粋✨
バンブー、Bamboo? 竹?
グラスの形はまるで竹………ふっ(笑)、相変わらず凝るなぁ♪
時と共にうつろう本物の竹は、BAR 和伽の、特徴的な室内装飾。
そうだねぇ、自然はうつろう、森もね。
飲み心地は、爽やかスッキリ✨
「度数は低めで」と指定したので、本来の風味を活かすのは難しかったと思うが、これなら、それこそ森歩きの休憩に、尻ポケットのスキットルに入っていたら、ご機嫌だ✨
シェリーの影響で飲みやすいが、ビターズの“檜”が、元々の風味の“森感”を支えている。
フードは、何種類かのチーズを、ニンニク醤油漬けや、西京漬けなどにした、チーズ盛り合わせ。
これがまた、うまいし、スッキリバンブーに合う♪
“漬け”の工程は安藤氏だろうが、試しにどこのチーズ?と聞いたら、
「マザー牧場です。」
「くっ(笑)……」
決して笑う場面ではないが、何だか、あまりにも“らしすぎて”、笑いを押し殺す。
チーズは、後方の“福辰の飯盗”をトッピングしても美味い♪
あぁ、美味いな♪酒もつまみも♪幸せだな、俺は。
この瞬間だ、自分の美味しいを見つける瞬間。
どんなストレスも、この幸せの瞬間の前には雲散霧消なんだ✨
☆ ☆
とかなんとか、ひたっている間に、お隣には、女性の二人組が座り、何を頼もうかの相談になっていた。
決して聞き耳を立てているわけではないが、なかなか決まらないようだ。
俺はムズムズしてきた。
“聞いてみたい……フォレストジンの感想を聞いてみたい……!!!”
そして、Barではあまり褒められない行いに、ついに出てしまった。
「よろしかったら、こちらのお酒を飲んでみませんか?今、感想を聞いているので。」
好奇心でワクワクした表情を隠し、精一杯、真面目な顔をつくる(笑)。
安藤氏が「え・え・えぇ?」という表情を一瞬見せるも、素早く割って入ってきた。
「この方、お酒のコメントを書いてるんですよ💦」
“すまない、オーナー!”
心の中で手を合わせ(笑)、俺は続けた。
「よろしければ、飲んだ感想を聞かせてくれませんか?」
「私達でよければ……飲んでみたいです。」
快諾いただけ、ホッとする(ホッとしてるのは俺だけだが、笑)
というわけで、なかなかムズいシチュエーションが生まれてしまった。
俺を入れて同時に3人、フォレストジンのカクテルを出さねばならない。
Barの注文はオーダーメイド。
それぞれの好みに合うよう、どうする?オーナー(本当にすまん!)
安藤氏が少し考えている間、女性陣にはフォレストジン単独の香りをかいでもらった。
「あ…アロマって感じ……✨」
「いい香り!そのままお部屋に置いといていいかも」
その直感的な言葉の中に「スギ・ヒノキ」といった、ピンポイントの単語は無かった。
それどころか、酒に対し“アロマ”という感想は、俺は初めて聞いた。
つまり、それほど香りが特徴的な酒ということだ。
「スタンダードな飲み方で、味わっていただいた方がいいように思います。梨のジントニックはいかがですか?甘みの加減は、それぞれ変えましょう。」
「私はあまり甘くない方が…」
「私は甘くていいです。」
「承知しました!」
美しい江戸切子調の、形は同じ色違いのグラスが、3つカウンターに並んだ。
この見た目でも、3種類の異なる飲み物のアピールになる、なるほど。
梨のジントニックのグラス。
「爽やか~!」
「のみやすい、美味しい!」
「香りがいい~♪」
美味しく味わってもらえたようで良かった。
オリジナルの香りをかいだ後でも、違和感の無い感想ということは、カクテルが成功しているということでもある。
(ここでまた、心の中で手を合わせる、笑)
☆ ☆
ところで俺は、生チョコレートを頼んでいた。
だがこの注文は俺的には失敗だった。
チョコは美味い、チョコが食べたかったんだよ、うん。
でも、ジントニックには合わなんだ(笑)せっかくの爽やかさが帳消しだよ。
チョコだけ先に食べてしまおう。
「ここのメニューって、面白いですよね。」
隣の女性陣の会話がはずんでいる。
「チョコ、美味しそうですね!」
「ええ、美味しいですよ。」
「にしても、皿が大きいわね(笑)」
「ですよね(笑)」
確かに皿がデカい!そう言えばチーズ盛り合わせも……
そのタイミングで俺達3人は、他のお客に出されるパスタの大皿を見送った。
「皿が大きいと美味しそうに見えますよね!」
「フレンチとか、そうですもんね。皿の上に皿とか(笑)」
「はっはっはっ!でも、本当に美味しいからいいんです。」
「この鯖も美味しいですよ♪少したべませんか?」
「ありがとうございます。でもチョコでおなかいっぱいなんです。」
気付けば、カウンターもソファー席も満席だ。
皆、思い思いにくつろぎ、空間に幸せが満ちている。
安藤オーナーは忙しそうだ。
………何だろう、何だか、噛みしめたくなるような光景だな……。
俺は目を細めた。
「決めた、タイトルを決めました、“皿がデカいBar、もしくは幸せなBar”です(笑)」
☆ ☆
最後の一杯は、懐かしのクリスチャンドルーアンの「ル・ジン」。
まだ、カルヴァドスカスクがあることが嬉しかった。
そのままストレートで飲みはじめ、すぐに、生チョコを食べ終えたことを後悔した(笑)
「しまった~チョコはここで頼むべきだった~、くぅ~」
そう呟くと、団子のように串に刺さった生チョコが、わらび餅の隣に並んだ。
見た目は和風で統一らしい、チョコだが(笑)
串刺しの生チョコ。多分、本当に、1つ1つのサービスに“こだわり”があるのだ。
ル・ジンは、俺にとっては自分を取り戻す酒の1つだ、そう、いろいろ考えたい時の酒。
帰って、書き留めねばならぬことが沢山あるからね。
☆ ☆
「それではお先に失礼いたします。またどこかでご縁がありましたら。」
「また、ぜひ。」
楽しい時間はお開き、彼女達の素敵なBarライフを祈ろう。
Barで過ごす心豊かな時間を何とか伝えたくて、存外、長文になってしまった。
そして、俺の好奇心は止まらない。
“知りたい”その気持ちに突き動かされて、俺はまたBarの扉を開けるんだ。
BAR 和伽
千葉県柏市柏3-3-18 AK BLD.Ⅶ 202
営業時間:19:00〜3:00
定休日 :日曜/月初の月曜〜火曜