Bar Trias『旅の始まりのBar』
プロローグ
都内某所。
「……それでね、初めてウイスキーを飲むと言ったらさ、度数の低い、カクテルから始めてみませんか?って、アドバイスされたんだ。」
「そのBarは良いBarだと思います。通常、そういうアドバイスは少ないかと……」
☆ ☆
陽もとっぷりと暮れた、柏駅西口。
大通りをバスが行き来し、人は皆、足早だ。
少しそれて路地に入ると、クラシカルな街灯が目印のBar Triasがある。
先達て、美味しい探しのリスタートをすると書いたが、
そのためには、俺にとっての「最初」が沢山きざまれたBarから始めねばならない。
何の疑問もなく、自然にそう思えた。
だから俺は、またここから始めるのだ✨
☆ ☆
隠れ家のような、こじんまりした店内は、俺が座ったらほぼ満席。
久々の来店だが、椅子におさまるとホッとする。
と同時に、「最初」の出来事をいくつも思い出していた。
まずはスプモーニ(カンパリ・グレープフルーツジュース・トニックウォーター)を。乾いた喉を潤すのに最適。
“同じ名のカクテルでも、店により、人により、味が違う”
それが、ここでの最初の驚きだった。
ある店では、風のように軽い飲み口でも、Triasでは深みがある。
そう感じることが幾度となくあった。
どちらがいい悪いではない、どちらが好みかということだ。
ベースの酒が異なるのかもしれないし、パフォーマンスのクセでもきっと違う。
要は、一杯は「一期一会」なのだということを初めて自覚したのだ。
そう言えば、※(1)ベリーニのおかわりをお願いした時に、
「同じものはつくれませんが……よろしいでしょうか?」と聞かれたこともあった。
材料の桃が、産地や個体が違えば、糖度も味も違い、同じものが無いからだ。
きっとこーゆーのを、良心的と言うのだろう。
“液体がきちんと混ざる意味”を最初に意識したのも、ここだ。
※(2)ジュニパーベリーのインパクトの強い、※(3)シップスミスでカクテルをお願いしたときだ。
味的には、シップスミスが突き抜けると思いきや、一体感と滑らかさにびっくりした。
まるで、最初からそーゆー液体であるかのような……。
俺はただの素人だが、それでも思った。
液体同士がきちんと混ざっているから、この味なんだと✨
☆ ☆
まだまだ「最初」は尽きないが……
ドライフルーツの最後の一切れを食べ終わったところで、※(4)ラガブーリンを飲み終えた。
さて……原点回帰といくか。
「この後に合う、ウイスキーベースのカクテルをお願いします。」
「はい。」
オーナーバーテンダーの鈴木氏が差し出したのは……
「ブールヴァルディエです。」
知らない!初めて聞く名称だ❗
「カクテルの意味は、フランス語で“伊達男”」
「え?肩で風切る……何とかかい?」
「はい。言い方を変えれば“ダンディ”でしょうか。」
(伊達男ってぇのはエールか?少々プレッシャーだけど…努力目標にしとこう…笑)
ブールヴァルディエ。普段、バーボンは飲まない俺の、これがバーボンの入口になるかもしれない。
レシピは、※(5)バーボン(今回はWoodford Reserve)、スイート※(6)ベルモット、※(7)カンパリ、オレンジピール。
レシピ的には、※(8)ネグローニのジンがバーボンになった感じだ。
度数は高めだが、柑橘の香りからのバーボンのコクが心地よく、スルスル飲んでしまった。
目新しい材料ではないのに、新しい味だ✨
そうか、この一杯が新たな始まりなんだな❗
塩気とブールヴァルディエはとても合う。生ハムをお供に…たまらんなぁ
☆ ☆
ここは、俺にとって「旅の始まりのBar」。
何度でも、ここから旅が始まる。
開けてもらったドアから、外へ一歩踏み出した。
また新しい旅の始まりだ✨
(じゃあ、行ってくるわ!……またそのうち来るけどね、笑)
※(1)ベリーニ:白桃のピュレとスパークリングワインでつくるカクテル。通常、ピュレは注文ごとにつくる。
※(2)ジュニパーベリー:ヒノキ科の針葉樹、セイヨウネズの果実。ジンの風味付けの基本植物。
※(3)シップスミス:世界的なクラフトジンブームの先駆け。少量生産にこだわるロンドン・ドライ・ジン。
※(4)ラガブーリン:スコットランドの島、アイラ島のシングルモルトウイスキーの1つ。
※(5)バーボン:アメリカのケンタッキー州を中心に生産されているウイスキー。
※(6)ベルモット:白ワインにハーブやスパイスで香りづけ。ドライとスイートがある。
※(7)カンパリ:鮮やかな赤色と苦味が特徴の、ビター系リキュール。
※(8)ネグローニ:ジン・スイートベルモット・カンパリでつくるカクテル。
Bar Trias
千葉県柏市旭町1-4-11-201
営業時間:18:00~24:00
定休日 :火曜
https://www.instagram.com/bar_trias_suzuki/