くつろぎのBar

SOLITO&Trias「Barを愛す(その1)」

親父の訃報が届いた。
予知はしていたし、心構えもできていた。
でも、曇りガラスのフィルターのような、妙に現実感のない感覚が俺を襲い、何よりも慌ただしい現場の喧騒感が、俺を目の前の仕事に没頭させた。
そして終業時刻まで働き、よせばいいのに何を思ったか、「パブロフの犬」のような習慣で、SOLITOに立ち寄ったのだ。

 

 

エメラルドクーラーとモンブラン、いつも通りのオーダー。
ショートカットがキュートなMちゃんが、ソファー席まで、運んできてくれた。
ドリンクを一口ゴクン!ケーキを一口ぱくっ!
(やっぱうめ~、最強じゃね?この組み合わせ)……ジワッ…………え?
ゴクン、ぱくっ!美味いなぁ!……ジワジワッ………へ?
いつものオーダー、いつもの美味さ、いつものソファーに埋もれ、初めてリラックスした俺の中で、何かが決壊しようとしていた。

 

 

お決まりのパターンかもしれないが、俺は親父が大嫌いだった。
物心ついた頃から、親などいないと思って生きてきたんだ………そうか、死んだのか…。
まるで絵の具を全部ブチまけたように、あらゆる感情がない交ぜになり、俺の中で暴風雨になろうとしていた。
一口飲むごとに、一口食べるごとに、ジワジワはポトポトになり、ダラダラから、とめどなく溢れる涙へと変わり、いつしか、圧し殺すような声が漏れていたんだ。
店への迷惑とか、恥ずかしいとか、頭の片隅にはあるものの、まるでコントロールが効かず、本当に何かが決壊寸前だった。
気付けば、Mちゃんが俺の足元に座り、心配そうに俺を見上げていた。
“大丈夫ですか?”
“……親父が死んだんだ”
俺は、とりとめもない戯言を、ぽろぽろぽろぽろ、彼女に吐き出した。
彼女はじっと聞いていて、そして、“落ち着くまで、居てくださいね”と言った。
俺はメソメソと泣き続け、時間の感覚は吹っ飛び、気付くと営業時間を過ぎていたんだ!

 

 

我に返った俺は、慌てて席を立ち、自分のしでかしたことへの恥ずかしさと、店に迷惑をかけたことへの申し訳なさと、露出した傷の痛みで……

いったいどんな表情をしていたんだろう?
“Mさん、すみません……俺、迷惑かけました……”
背を向けて店じまいの作業をしていたオーナーは、ゆっくりと振り返った。
“大丈夫ですよ、店には誰もいませんでした”
そんなはずはないが、穏やかな表情は、いい歳こいてメソメソする俺をそっとしておいてくれた「武士の情け」に溢れていた。
だが、さすがに営業時刻を過ぎてまで居座ってはいけない。

 

 

“本当に大丈夫ですか?”と言う二人に心からの礼を告げ、俺はまだ雲の上を歩いているような、不自然な足取りで店を後にした。
この時点で俺の心には、押し付けでもない、恩着せでもない、優しい絆創膏が貼られていたのだが、それに気付いたのは、少し後になってからだった。

 

 

*画像はソファー席。この席は、チャージ料を取ってもいいかもしれないと思うほどくつろぐ。

 なぜならこのソファーは……。

 

Espresso&Bar come al SOLITO
柏市柏1‐1‐11 ファミリかしわ(丸井ビル)1F
柏駅南口より徒歩1分 ウイスキーの樽が目印
04-7197-2802
月~金    13:00~21:00
土・日・祝日 11:00~21:00

 

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